キノコを巡る旅へ
私の住む小樽は、北海道の西、北緯43度に位置しています。今は観光地として認知されていますが、北海道の古くからの商都として栄えました。坂が多く港と山野が狭い地形のなかに街がつくられています。冬は積雪が多く緩やかな自然災害とも言うべきなかで暮らしています。この地に暮らすものにとって春は長い辛抱の時期をやり過ごし、生命が躍動する季節なのです。山を歩いていると、山野草が小さく儚いけれど力強く大地から芽吹くその生命力を実感できます。それは、生命の営みが繰り返される強さの証です。そして山野を歩かなければ垣間見れない貴重な光景です。その山野に分け入り、山菜をいただくことも私の毎年の活動のひとつです。春のこの時期にしか味わえないかけがえのない、お金では買えない貴重な食材です。また、塩蔵や冷凍保存をすることにより、年間を通じて楽しむことができます。キノコとの出会いは、山を歩いていて数多くのキノコを見かけるのにその名前を知らないということに発します。キノコに注意を向けるとその種類、形態、色彩など大変興味深い生き物になっていきました。国内で名前のついているキノコの数は2,000種、名前のついていないものを入れると、5~6,000種にも及ぶそうです。またその成長過程が、幼菌、成菌、老菌と時系列での形態の面白さもあります。またキノコは森の倒木や枯れ枝、枯れ葉などを分解し土に還してくれる大切な分解者の役割を担っています。そんな森の中で人知れず逞しく生きているキノコの生きざまに魅了されて止みません。そんなキノコの一端をご紹介できればと思います。
小樽苗圃公園のキノコについて
- 小樽苗圃公園
- 小樽市幸1-53
- 北緯 43°12′49″
- 東経 140°58′39″
はじめに
この公園は、明治26年に林業用苗圃苗畑の第一号として開設され、長い間道内の緑化事業に貢献してきました。道内では最も古い森林公園として開設されました。春には約五千本のエゾヤマザクラが咲き乱れる桜の名所として知られています。そのほかミズバショウ、ザゼンソウ、エゾエンゴサク、キタコブシなどが咲き、新緑の季節には緑あふれる憩いの場となっています。
苗圃公園でのキノコの観察は、5年くらい前からです。キノコ自体に興味をもって山野を歩きだしたのは、7年くらい前で、最初は旭展望台周辺を探索し、少しずつ名前を憶えていきました。
全体的な苗圃公園のキノコの特徴としては、種類が豊富であること、単一のキノコの発生量は、あまり多くないということが特徴として挙げられると思います。まず苗圃公園をいくつかのエリアに分け、発生しているキノコの名前、発生量、植物の植生、土壌の様子等をご紹介していきたいと思います。
エリアⅠ
公園の中央園路半ばより少し進んだ、二つ目川が園路とぶつかるあたりに、東側斜面を登る散策路があります。散策路の入り口斜面を見上げると、ブナの木が多く見られます。この公園唯一のブナ帯です。しかし数にすれば30本前後と思われます。この斜面には、アカヤマドリ、ヤマブシタケ、アカエノズキンタケ、ミヤマベニイグチ、シロアンズタケ、ツエタケ、ドクツルタケ等が発生しています。この散策路の頂上にある三叉路まで登る途中、ヌメリスギタケモドキの発生する立ち枯れ木があります。頂上に着いて左の散策路を進むと、ウラグロニガイグチが点在します。20mくらい進むと、右側の笹薮の中のクリの立ち枯れ木数本の根際にクリタケが発生しています。また少し進むと、ドクヤマドリが多く点在してイグチ科のキノコが全体的に多く発生しています。次の三叉路に到着する間、スギタケモドキ、ハナガサタケ等が見られます。三叉路をまっすぐ進むと、すぐにホコリタケが散策路の左右にかたまって発生しています。次の三叉路を桜陽高校グラウンド方面に少し上るとキアシアミイグチが発生しています。反対方向の散策路を進むと、途中ハナイグチ、クリタケ等が発生しています。そしてこの三叉路すぐのところに、赤松の林があり、マツタケが発生していないか観察を続けます。
ヌメリスギタケモドキ クリタケ ホコリタケ
このエリアⅠの入り口近くの中央園路の右手にムラサキシメジ、クヌギタケが点在しています。
またもう少し中央園路を奥に進み、二つ目川の川原沿いを観察すると、ムキタケ、タヌキノチャブクロ、ニガクリタケ、ブナハリタケ、タマウラベニタケ等が確認できます。ここにある程度かたまって発生しているキノコがあります。一見ナラタケのように見えますが、ひだが垂生ではなく直生しているのでナラタケではないようです。センボンイチメガサのようです。この川原沿いと中央園路を挟んで反対側に湿地帯がありザゼンソウの群生地です。この湿地帯の中の大木の根際にムキタケが発生しています。また倒木(樹種不明)にエノキタケが発生しています。さらに中央園路を進み、駐車スペースのある場所、数軒の住宅を抜けると川と道路に挟まれた土手の中に、トガリアミガサタケが数個発生しています。近縁種のアミガサタケは、旭展望台の駐車スペースの近くで見つけていますが、この仲間はわりと人間に近い場所に発生している気がします。
エリアⅠの植生は、ミズナラ、クヌギ、クリ、ブナ等の広葉樹が主で、アカマツ、カラマツ等の針葉樹が点在しています。川沿いは、湿度が保たれ土壌はしっとりとした様子です。東側斜面を登るにつれ土壌は乾燥しはじめ、頂上の散策路は乾燥し締まった様子です。このエリアが一番キノコの種類が多く楽しめます。
エリアⅡ
この地域は、苗圃公園の中核をなすカラマツ林が広がっています。カラマツ、トドマツ、ストローブマツ、アカマツ等の針葉樹が人工的に植えられています。カラマツに発生するハナイグチも確認できます。三叉路②を公園入口方向に戻るように下ると、サクラ、ミズナラ、ハリギリ等が林を形成しています。この林の中にアブラシメジ、ドクヤマドリが点在しています。またわずかですが、アカイボカサタケ、シロイボカサタケ、ドクベニタケが確認できます。この先を進むとカラマツの林になります。川の源流がすぐあり、その近くにナメコが数本の細い倒木に点在しています。しかし最近では、見かけなくなりました。そのすぐ近くのミズナラの大木の下にスッポンタケが1本出ていました。この源流上には多数の倒木が苔を纏って存在します。そこに、ムキタケ、イヌセンボンタケが多く発生しています。源流を少し下った東側に、カラマツ、トドマツが植栽されており、それぞれ大木になっています。その外側に、サクラ、クヌギ、クリ、ミズナラ等の広葉樹が斜面を覆うように広く分布しています。ここには、クヌギタケ、センボンクズタケ、ムキタケ、クリタケ、キヒラタケが散在しています。また、キツネノローソク、オニナラタケ等が1本あるいは1束観察できました。この川と斜面の中間の窪地に、ほかより多くキノコが発生しています。湿度が保たれ、針葉樹、広葉樹が林立している場所で、キノコにとって居心地の良い場所なのだと思います。この窪地をもう少し川下に進み、針葉樹を抜けると適度に日差しの入る地帯があります。シラカバなどの広葉樹の倒木があり、キノコの発生条件が整った地帯と言えます。シロシメジ、ニガクリタケ、そのほか不明種も数種類確認できます。先ほどの源流に戻り道なりに進むと、カラマツ林が続き右手の少し奥を入るとハナイグチが散在しています。ここにはミズナラの大木があり、マイタケの発生予感がします。さらに道を進むと、ドクベニタケが点在しています。さらに進み、次につきあたる三叉路を左に進み中央園路に戻る20mくらい前の道上にクロホコリタケが数個発生しています。これは大きな図鑑にもあまり記載されていないキノコで、北海道キノコの会のホームページで確認できました。このエリアⅡはキノコの種類が豊富で、同定しきれないキノコが多数あります。これからが楽しみなエリアです。
エリアⅢ Ⅳ
まずエリアⅢは川の近くにトドマツが植栽されていて緩やかな斜面を上がると、クリ、サクラ等の広葉樹林が広がっています。ムキタケが立ち枯れ木に確認できます。クリの木の根際にクリタケが数か所発生しています。入り口から川へと続く道を進むとクマイザサが行く手を阻みます。そこをある程度進み続け、斜面を登るように進むと、今度はネマガリタケが鬱蒼と広がり、這うように進まなければなりません。そんな中オオズキンカブリタケが点在しているのが確認できます。サクラの花びらをつけたものもあり、とても趣があります。エリアⅢに入る道と反対の草むらの立ち枯れ木にエノキタケが束生しています。その時は、かさが開き切り雨に濡れ表面に光沢があり、とても綺麗でした。
このエリアは、遊歩道で区画されており、その中の草むら、林内での観察になります。いわば人の手によって作られた土壌に発生するキノコの観察と言ってもいいかもしれません。まず管理棟横の駐車場からまっすぐ余市方面に坂を上ると、左手に雑木林があり、ムラサキシメジが点在しています。またアカチシオタケ、キララタケがそれぞれ群生しています。この2種が群生で観察できるのはここだけでしょう。このエリアで見かけたのが、ヤマドリタケモドキです。とても美味しいキノコのようですが、発生数が少ないので観察だけになっています。
以上、エリアごとにご紹介しましたが、発生時期などの時系列は考慮しないで記載しております。観察できるキノコが多い時期は、8~10月だと思いますが、定点で発生するもの(クリタケ、ハナイグチなど)はそれほど多くなく、毎年同じ場所に発生するとは限りません。それが悩ましいところでもあり面白いところでもあります。自然を散策する楽しさが伝われば幸いです。
コメント
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